選択と集中で点を伸ばす ─ 受験勉強のトレードオフ入門【エッセンシャル思考・第3回】
更新日 : 2025年12月5日
選択と集中で点を伸ばす ─ 受験勉強のトレードオフ入門【エッセンシャル思考・第3回】
「やりたいこと・やるべきこと」が溢れる今、私たちはしばしばトレードオフ(何かを選ぶことは、何かを捨てること)から目を背けます。
しかし、トレードオフを無視しても、トレードオフから逃れることはできません。
受験勉強で成果を出す鍵は、失うものを嘆く視点ではなく、どこに全力を注ぐかを決める視点に切り替えることです。
1. トレードオフを無視する代償:取り返しのつかない損失
「全部やる」アプローチは気分を安心させます。けれども、時間・体力・集中力は有限です。あれもこれも手を出すほど、一つひとつは中途半端になり、本当に必要だった一点に十分なリソースを投下できない――これが最大の損失です。
- 参考書を次々と乗り換え、どれも定着しない
- 模試の復習を全問やろうとして時間切れ。頻出の取りこぼしが残る
- 睡眠を削って「作業勉強」。翌日以降の学習効率が下がる
大学進学という明確な目的があるなら、「今は何を捨て、どこに全力を注ぐか」の判断を避けてはいけません。
2. ネガティブな諦めではなく、ポジティブな集中へ
トレードオフを「何を諦めるか」と捉えると、自己否定が強くなります。視点を反転させ、「どこに全力を注ぐか」を決めましょう。選択とは縮小ではなく、集中のための設計です。
3. 非エッセンシャル思考 vs エッセンシャル思考
誤解されがちですが、エッセンシャル思考の人は「選択肢を少なく見る人」ではありません。むしろ、最初は幅広く検討し、最後は厳しく絞る人です。
非エッセンシャル思考
- とりあえず何でもやってみる
- 多くに手を出し、全てが中途半端
- 判断基準が曖昧で、他人や流行に流される
- 時間不足・睡眠不足で効率が落ちる
エッセンシャル思考
- 広く情報収集し、最後に厳しく選ぶ
- 「これだけは」を実行。行動数は少ないが成果は大きい
- 明確な基準でNoを言える
- 睡眠・余白を守り、質を高く保つ
4. 本当に重要なことを見極める5つの条件
重要度を見抜くには、次の5つが不可欠です。受験用に置き換えて具体化します。
- じっくり考える余裕:志望校の過去問5年分を俯瞰し、頻出形式をメモ化(60分)。
- 情報を集める時間:赤本・配点表・出題範囲を確認。教科ごとの点になる20%を抽出。
- 遊び心:暗記は語呂・小テスト・タイムアタックなどで「楽しく」高速回転。
- 十分な睡眠:23:30就寝ルール。睡眠は翌日の学習効率と記憶定着の土台。
- 厳密な基準:教材選定の3条件=志望校レベル一致/解説が自分に合う/1〜2か月で3周可能。
5. 受験勉強における具体的なトレードオフ設計
5-1. 教材のトレードオフ:一軍1冊×3サイクル
同難度の参考書を並行するほど、記憶が分散します。一軍1冊主義で次の3サイクルを回します。
- ① 通読完走(7割理解でOK/全体像)
- ② ×印回収(弱点帯だけ高速復習)
- ③ 穴の周回(本当に落とせない問題のみ)
5-2. 時間のトレードオフ:日次の「上限」を決める
- 英単語:1日300語まで(朝・通学に固定)
- 数学:基礎5問+誤答2問(固定メニュー)
- 長文:精読1本 or 多読2本の二択制
- 理社:テーマ1つを30〜45分で完結
やり過ぎは翌日を壊します。上限は集中のための「守るべきライン」です。
5-3. 生活のトレードオフ:捨てる具体例
- 23:30以降の深夜作業勉強を捨てる→翌朝の高効率時間に集中する
- 机でSNS・動画を捨てる→学習後の休憩に回す
- 美しすぎるノート作りを捨てる→「要点3行要約」に集中する
6. 「幅広く検討→厳しく絞る」実践ワーク(20分)
- 志望校の過去問5年をざっと見て、出題形式の頻出Top3をメモ(7分)
- 手元の教材を並べ、一軍の3条件で採点(7分)
- 一軍1冊と、今月捨てる教材2つを決定(3分)
- 一軍1冊の3サイクル計画をカレンダーに書き込み(3分)
7. 非エッセンシャル思考に戻らないための予防線
- 週1の見直し:「やめる/減らす/置き換える」を各1つ決める
- 寝る前の10分:明日の「着手1歩目」をメモ(開始の摩擦をゼロに)
- スマホの家族管理:21:00以降は親に預ける or 別室で充電
8. 保護者の方へ:プレッシャーの加算より、集中の支援を
トレードオフの現実を受け入れるには、家庭の理解が不可欠です。
- 「全部できた?」→ 「今日の“いちばん大事”はできた?」へ
- 結果の追及→ 習慣の承認(机に座った・一軍1冊を回した 等)
- 毎週の家庭ミーティングで捨てる2つを一緒に決める
9. よくあるQ&A(トレードオフ編)
Q. 参考書を1冊に絞るのが不安です。
A. 不安は自然です。だからこそ最初に「広く検討」し、厳密な基準で1冊を選びます。3サイクル完走後、必要なら弱点補完だけ追加します。 Q. 友達が別の教材で伸びています。
A. 他人の成功は他人の最適化です。あなたの志望校・現状・理解言語に合う一軍1冊で、再現性の高い伸びを狙いましょう。
10. まとめ:トレードオフは敵ではなく、最短ルートの地図
トレードオフから目を背けても、現実は何も変わりません。勇気を出して「どこに全力を注ぐか」を決めると、勉強は一気にシンプルになり、結果が動き始めます。
量より方向。多さより濃さ。――それが少ない勉強で大きな成果を生む方法です。
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「何を捨て、何に集中するか」を一人で決めるのは難しいもの。
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参考文献:グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』(かんき出版)
※本記事は同書の考え方を参考に、受験勉強へ応用して解説しています。
