「入試まで戦える脳をつくる睡眠戦略」|長期的パフォーマンスを維持する科学
更新日 : 2025年10月26日
「勉強時間を増やす=成績が上がる」と信じて、夜遅くまで机に向かう——。
でも、実際には夜型になるほど成績が下がるというデータがあります。
入試は一夜の勝負ではなく、半年以上続く長期戦。
ここでは、脳科学の知見から、長期的に集中力と理解力を維持するための“睡眠戦略”を紹介します。
① 「眠気」ではなく「脳疲労」が勉強の敵
眠い・集中できない——これは意志の問題ではありません。
実は、睡眠不足が続くと脳の前頭前野(思考・判断・集中を担う部位)の神経回路が慢性的に過活動になります。
ハーバード大学の研究では、5日間睡眠が6時間以下になるだけで、注意力と論理的思考力が30〜40%低下することが確認されています。
つまり、「寝てない=努力」ではなく、寝てない=脳が壊れ始めている状態。 睡眠はサボりではなく、脳を戦闘モードに戻す時間です。
② 睡眠不足は「記憶の通信エラー」を引き起こす
新しい知識は、まず海馬に一時保存され、その後、睡眠中に大脳皮質へ転送されます。 スタンフォード大学の研究によると、この転送作業が阻害されると、前日に覚えた情報の再生率が半減するとのこと。 つまり、寝不足の日は「昨日勉強した内容が脳に届いていない」可能性があるのです。
短期的には気づかなくても、これを数週間・数ヶ月続けると、 “覚えても定着しない”勉強になり、努力が空回りします。
③ 「起きる時間を固定する」が最も重要
東北大学加齢医学研究所の調査では、入試期の高3生のうち、 毎日同じ時間に起床していた生徒の方が模試偏差値が平均+3.2高いという結果が出ています。 人間の体内時計(概日リズム)は光の刺激と朝の行動でリセットされるため、 起きる時間を一定にすると「学習リズム」も安定するのです。
おすすめは、試験当日の起床時間を基準に、3か月前から同じ時間に起きる習慣をつくること。 たとえば入試が朝9時開始なら、6時半起床を毎日キープ。 これで本番当日も“いつも通り”のリズムで脳を動かせます。
④ 入試直前期こそ「寝だめ」より「均等睡眠」
「前の日に寝だめしておこう」は逆効果です。 睡眠時間を大きく変えると、体内時計がズレてパフォーマンスが翌日に落ちることが分かっています(NASA研究, 2018)。 最も理想的なのは、毎日6.5〜8時間の安定した睡眠を保つこと。 夜に詰め込むより、翌朝スッキリした状態で2時間集中する方が定着率は圧倒的に高いです。
⑤ 「仮眠」と「朝光」で脳をリセット
長期戦では、日中の集中の波をどう保つかも重要です。 NASAの実験では、昼に15〜20分の仮眠をとったグループの認知スコアが+34%上昇。 ただし30分を超えると深い睡眠に入り、逆効果になります。 「昼食後に15分、目を閉じる」だけでも、午後の集中力が劇的に上がります。
そしてもう一つ重要なのが朝日を浴びること。 起床直後に5〜10分、自然光を浴びるだけで、体内時計がリセットされ、 夜のメラトニン(眠りホルモン)の分泌も整います。 これが、入試期にありがちな“昼夜逆転”を防ぐ最強の方法です。
⑥ 試験前日と当日の「睡眠マネジメント」
試験前夜は「眠れないのが普通」です。 無理に寝ようとすると逆に覚醒します。 ここで重要なのは、「布団に入る時間」だけはいつも通りにすること。 眠れなくても、身体がリズムを記憶しているので翌朝自然に整います。
当日は、睡眠時間より“起床後の過ごし方”を意識。 朝光・朝食・軽いストレッチをルーティン化し、 試験会場ではカフェインを摂りすぎず、昼食後に短い仮眠を取る。 それが最も安定した脳コンディションをつくります。
⑦ 睡眠は「努力の土台」になる
努力は「起きている間」にするもの。 でも、努力を支えるのは「眠っている間」です。 入試という長期戦では、脳の再生リズム=学力の再現性。 どんなに頑張っても、睡眠リズムが乱れれば集中力も崩れます。
だからこそ、寝る時間ではなく起きる時間を守る。 勉強時間を増やすより、脳が最もよく働く状態を維持する。 それが現論会が考える「科学的受験戦略」です。
眠りを制する者が、入試を制する。
無料受験相談もやってます!
参考文献・出典
- Stickgold, R. (2005). Sleep-dependent memory consolidation. Nature, 437(7063), 1272–1278.
- Walker, M. (2017). Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams. Scribner.
- Van Dongen, H. P. A., et al. (2003). The cumulative cost of additional wakefulness. Sleep, 26(2), 117–126.
- NASA Fatigue Countermeasures Program (2018). The Effects of Short Naps on Performance and Alertness.
- 東北大学加齢医学研究所「高校生の生活習慣と学業成績の関連に関する研究」(2019)