スマホが近くにあるだけで集中力は下がる?|脳科学で見る「注意の分散」
更新日 : 2025年10月23日
この記事は「スマホと集中力」をテーマにした2回シリーズです。
前編では“スマホがあるだけで集中が下がる理由”、後編では“スマホを味方にする学び方”を紹介します。
「スマホは触っていないから大丈夫」——本当にそうでしょうか?
実は机の上にスマホが“あるだけ”で、集中力は低下することが多くの研究で確認されています。
勉強の効率を上げたいなら、まずこの“見えない集中の敵”を理解する必要があります。
① スマホが近くにあると成績が下がる?
テキサス大学オースティン校(Ward et al., 2017)の研究では、被験者を3グループに分けました。
- スマホを机の上に置いたグループ
- スマホをカバンの中に入れたグループ
- スマホを別室に置いたグループ
その結果——スマホが視界にあるグループは、問題解決テストで明らかに成績が低かったのです。
しかも「通知をオフにしていても」同じ結果。
つまり脳は、無意識のうちに「スマホの存在」に注意資源を奪われているのです。
② なぜ“触っていないスマホ”でも集中を妨げるのか
スマホは現代人にとって報酬の源です。
通知やSNSの更新が「次の快楽を予期させる刺激」として脳を興奮させます。
このとき働くのがドーパミン系(報酬系神経回路)。
ドーパミンは“実際に報酬を得たとき”よりも、“報酬を予測したとき”に強く分泌されます。
つまりスマホが近くにあるだけで、脳は「次の刺激が来るかも」と無意識に構えてしまうのです。
この状態を心理学では注意の分割(divided attention)と呼びます。
集中のエネルギーが、目の前の勉強とスマホへの期待の間で分散してしまうのです。
③ スマホが集中を奪う“静かなコスト”
スタンフォード大学の研究(Rosen et al., 2013)では、学生が勉強中に通知を見るたびに、
集中状態に戻るまで平均23分かかることが報告されています。
しかもスマホの「ちら見」でも同様の効果があり、1時間に数回確認するだけで、
実質的な集中時間は半減することもわかっています。
スマホはまるで“見えない勉強妨害装置”。 自分の意志ではなく、脳の仕組みで注意が奪われているのです。
④ 対策:「距離」と「視界」の2点を断つ
重要なのは、電源を切ることではなく「距離を取る」ことです。
- スマホは別室・玄関・廊下など物理的に遠ざける
- どうしても手元に置く場合は、画面を下向きにして布で覆う
- 通知は「一括オフ」ではなく、勉強用モードを設定
視界と手の届く距離からスマホを外すだけで、脳の注意資源は約20〜25%回復するという実験結果もあります(Ward et al., 2017)。
⑤ まとめ:集中は「脳の余白」で決まる
スマホを使うな、ではなく、使う“位置”と“タイミング”をデザインする。
集中とは、何かを詰め込むことではなく、余計な刺激を減らすこと。
まずは、勉強机からスマホを1メートル離してみましょう。
それだけで脳の静寂が戻り、勉強の「深さ」が変わります。
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参考研究
- Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140–154.
- Rosen, L. D., Carrier, L. M., & Cheever, N. A. (2013). Facebook and texting made me do it: Media-induced task-switching while studying. Computers in Human Behavior, 29(3), 948–958.
- Ophir, E., Nass, C., & Wagner, A. D. (2009). Cognitive control in media multitaskers. Proceedings of the National Academy of Sciences, 106(37), 15583–15587.
タグ:集中力 / スマホ / 脳科学 / ドーパミン / 注意分散