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AIの活用の仕方を考える【12月の学術記事】

更新日 : 2025年12月12日

2025年、今この文章を読んでいる皆さんの手元には、当たり前のようにスマートフォンがあり、その奥にはChatGPTをはじめとする高度な生成AIが控えています。レポートの要約、コードの記述、あるいは今夜の献立の提案まで。かつてSF映画の中でしか見られなかった「魔法の杖」は、もはや空気のようなインフラになりました。

これほど便利な時代に、あえて問いたいことがあります。

「AIが何でも答えてくれるなら、私たちが苦労して勉強し、知識を蓄える意味はどこにあるのか?」

今回の記事は、この根源的な問いに対し、最新の研究知見と、私自身が記事を書く際に実践している「AIとの付き合い方」を交えながら、これからの時代に求められる「知性」の正体について熱く語りたいと思います。

1. 「Jagged Frontier(ギザギザの境界線)」を知っているか

まず、一つの重要な研究を紹介させてください。ハーバード・ビジネス・スクール等の研究チームが2023年に発表した論文(Dell’Acqua et al., 2023)は、AI時代の働き方について衝撃的な示唆を与えました(*1)

彼らはコンサルタントを対象に実験を行い、生成AIを使用することで、多くのタスクにおいてパフォーマンス(質と速度)が劇的に向上することを確認しました。しかし、ここで注目すべきは「Jagged Frontier(ギザギザの境界線)」という概念です。

AIは、ある種のタスク(創造的なアイデア出しや文章の要約など)では人間を凌駕しますが、微妙なニュアンスの判断や、文脈に深く依存する複雑な論理構成においては、依然として人間に及びません。この「得意」と「不得意」の境界線は、滑らかな曲線ではなく、予測不能でギザギザしています。

この研究が示唆するのは、「AIに丸投げすれば正解が出る」わけではないという事実です。
AIの能力が高い領域と、人間が介入すべき領域を見極める「目利き」の力こそが、これからの熟練者の条件となるのです。

2. 「問いを立てる力」こそが最強のプロンプト

「答え」のコモディティ化(陳腐化)が進む中で、相対的に価値を高めているのが「問いを立てる力」です。

生成AIを使ってみて、「平凡な答えしか返ってこない」と失望したことはありませんか? それはAIの性能のせいではなく、こちらの「問い(プロンプト)」の解像度が低いからかもしれません。
AIは、膨大なデータの中から確率的に「最もありそうな答え」を返します。つまり、普通の質問には、平均的で退屈な答えしか返さないのです。

  • 「環境問題について教えて」と聞く人
  • 「環境問題における先進国と途上国の対立構造を踏まえ、2025年現在の技術的解決策の限界は何?」と聞く人

両者の間に返ってくるアウトプットの質には、天と地ほどの差が生まれます。
優れた問いを立てるためには、前提となる知識(教養)と、現状を疑うクリティカル・シンキング(批判的思考)が不可欠です。つまり、皮肉なことに、AIを使いこなすためには、これまで以上に人間側の「勉強」が必要になるのです。

3. 受験生へ:新課程「情報Ⅰ」と現代文がつながる場所

この話は、遠い未来のビジネスの話ではありません。今の受験勉強に直結しています。

2025年度入試から本格化した新課程「情報Ⅰ」。これは単なるプログラミングのテストではありません。そこでは「データに基づいて問題を解決する力」や「情報社会の倫理」が問われます。まさに、AIという道具をどう扱うかというリテラシーそのものです。

また、大学入試の現代文(評論文)においても、「ポスト・ヒューマン」や「技術的特異点(シンギュラリティ)」をめぐる議論は最頻出テーマです。
「AI便利だよね」という感想レベルではなく、「AIによる自動化が進む中で、人間の精神性や創造性はどう再定義されるべきか」という視点を持っていることは、小論文や面接、そして難関大の読解において強力な武器になります。

4. 私の流儀:AIは「代役」ではなく「壁打ち相手」

ここで、私自身の話をさせてください。
実はこの記事を書くにあたっても、私はAIを使用しています。しかし、絶対に譲れない「鉄の掟」があります。

「文体(トーン&マナー)と最終的な意思決定権は、絶対にAIに渡さない」

AIに「ブログ記事を書いて」と一言命令すれば、3秒でそれらしい文章が出来上がります。文法も完璧で、論理も通っているでしょう。しかし、そこには「熱」がありません。どこかの教科書を切り貼りしたような、血の通っていない文章になってしまうのです。

私はAIを次のように使っています。

  1. アイデアの拡散(壁打ち):
    「AIと教育について、意外性のある切り口を5つ挙げて」といったように、自分の発想の枠を広げるための「増幅装置」として使います。
  2. 執筆(人間の領分):
    構成が決まったら、実際に文章を打つのは私の指です。言葉のリズム、行間、そして「どうしてもこれを伝えたい」という切実さは、人間である私の身体性からしか生まれないからです。
  3. 検証(批評家の目):
    AIが出してきた情報やアイデアは、必ず疑います。「本当にそうか?」「出典はあるか?」と突っ込みを入れるプロセスそのものが、私の思考を鍛えてくれます。

AIに使われるのではなく、AIを使って自分の思考を限界まで拡張する。
あくまで主役は人間であり、AIは優秀な「副操縦士」に過ぎない。このスタンスを崩さないことが、AI時代のライティングにおいて最も重要だと感じています。

5. AIに代替されない「学びの楽しさ」とは

最後に。
AIがあらゆる問いに答えられるようになったとしても、私たちが学ぶことの楽しさは失われません。むしろ、より純粋なものになるでしょう。

AIは「確率的に正しい答え」を出すのは得意ですが、「意外なつながり」や「無駄に見える寄り道」を見つけるのは苦手です。
しかし、歴史上の大発見や、心を震わせる芸術は、往々にしてその「論理的な正解」の外側にある「寄り道」から生まれてきました。

分からないことに直面し、悩み、文献を漁り、友人と議論し、ある日突然「あ、わかった!」と脳内に稲妻が走る瞬間。この知的興奮だけは、どんなに高性能なAIにも代替不可能です。

学ぶことは、単なる情報のインプットではありません。自分自身のOSをアップデートし、世界の見え方を変えることです。
AIという最強のツールをポケットに入れつつ、自分の頭で汗をかいて考える楽しさを、どうか手放さないでください。それこそが、今後私たちに求められる技術だと思っています。

楽しくこれからもAIと向き合って行きましょう!


【参考文献】
(*1) Dell’Acqua, F., McFowland, E., Mollick, E. R., Lifshitz-Assaf, H., Kellogg, K., Rajendran, S., Krayer, L., Candelon, F., & Lakhani, K. R. (2023). Navigating the Jagged Technological Frontier: Field Experimental Evidence of the Effects and Risks of AI on Consultant Performance. Harvard Business School Technology & Operations Mgt. Unit Working Paper, (24-013).
Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4573321

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