数学が苦手なら“良問じっくり主義”で行け! ― 大量演習は逆に遠回り
更新日 : 2025年8月12日
数学の参考書選びの相談を受けると、数学が苦手な受験生ほど「青チャートのように問題数の多い本が安心」と選びたがる傾向があります。一見、「たくさん問題を解けば力がつく」という考えはもっともらしく聞こえます。ですが、これは数学が苦手な人ほどハマりやすい、典型的な落とし穴です。
わたしは長年、大学受験数学の指導に関わってきました。その経験から断言します。数学が苦手な人こそ、大量演習ではなく、良問を時間をかけて深く理解することが必要であり、それこそが最短ルートです。
■ 大量演習のワナ
青チャートは確かに名著です。体系的で網羅性が高く、基礎から発展まで揃っています。しかし、ページをめくれば延々と続く例題と練習問題。その一問一問にきちんと時間をかけていたら、とても全範囲をやりきれません。そのため多くの受験生は、途中からこうなります。
- 解けない問題はすぐ解答を見る
- 理解が浅いまま次の問題に進む
- 「やった気」だけが積み上がる
さらに、その背景には**「たくさんの解法パターンを丸暗記してしまえば安心」という、数学の本質からは遠い発想があります。本質を理解しないパターン暗記は短期的には得点に見えることもありますが、少し条件が変わっただけで歯が立たなくなります。これこそが、数学の理解を妨げる大きな要因です。結果、「自分はやっぱり数学がダメだ」と自己評価がさらに下がり、暗記依存の悪循環に陥る――これが典型的な失敗パターンです。
■ 良問をじっくり解くメリット
では、どうすればいいのか。答えはシンプルです。“量より質”に切り替えることです。良問とは、単に難しい問題ではなく、1問の中に複数の重要概念や解法のポイントが詰まっている問題です。こうした問題を、時間制限を設けずにじっくり解き、理解し、解法を再現できるようにする。
この方法にはメリットが3つあります。
- 理解の定着が深い
1問を解き切る過程で、定義や公式の意味、解法の選択理由まで掘り下げるため、記憶が長持ちします。 - 応用力がつく
同じテーマの別の問題にも自然と対応できるようになります。 - 自己効力感が高まる
「自分は1問を解き切れた」という成功体験は、次の学習へのモチベーションになります。
■ 実際の勉強プロセス例
たとえば、ある日の課題を「二次関数の最大・最小の1問」に設定します。
その日の流れはこうです。
- まずは自力でトライ(制限時間は設けない)
- わからない部分を洗い出す(どこから解けなくなったかを明確にする)
- 解答をじっくり理解(公式の使い方、解法の分岐点、なぜこの手順なのか)
- 類題を1〜2問だけ解く(パターンを確認)
- 翌日に同じ問題を解き直す(完全再現できるまで繰り返す)
この5ステップを守るだけで、1問が“武器”になります。逆にこの過程を省略して100問解いても、ほとんどは使えない知識のままです。
■ 実際に使うならこの本
もし「じゃあ、何を使えばいいの?」という疑問が湧いたなら、わたしはまず東京出版の『1対1対応の演習』シリーズをおすすめします。網羅性は高くないですが、1問の中に複数の重要ポイントが詰まった良問ばかり。解説も論理的で無駄がありません。
さらに東大や京大、東京科学大などの超難関大を目指す方にはできたらもう一冊、『考え抜く数学(学コンに挑戦)』も非常に有効です。これは東京出版の学力コンテスト出題問題をベースにしたもので、難易度は高めですが、1問を通して考える訓練ができます。数学の本質に迫る「考える力」を鍛えるなら、この本は強力な武器になります。
■ 「勉強時間=問題数」という思い込みを捨てる
数学が得意な人は、大量の問題をこなしても、頭の中で即座にパターン整理できます。しかし、苦手な人はそうはいきません。未消化の知識を積み重ねることは、砂上の楼閣を作るようなもの。むしろ、少数精鋭の問題を徹底的に理解する方が、結果的に早く点数が伸びるのです。
■ まとめ
- 数学が苦手な人ほど「量で安心」→「解法暗記で安心」という発想に陥りがち
- これは数学の本質的理解を阻害する大きな原因
- 良問を深く理解するほうが、定着・応用・自信の3点で有利
- 実際には『1対1対応の演習』や『考え抜く数学(学コンに挑戦)』が最適
- 1問を“武器化”する学習サイクルを回すことが重要
大量演習で安心感を得るのは簡単です。でも、それは本番で使えない知識を量産する危険な道です。
本当に成績を伸ばしたいなら、今日からでも「良問1問主義」に切り替えてみてください。